大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和58年(行ウ)50号 判決

原告

植田肇

熊野実夫

川端悦子

伊集院勉

小坂静夫

井上鶴彦

佐久國美

原告ら訴訟代理人弁護士

辻公雄

竹川秀夫

井上善雄

小田耕平

国府泰道

原田豊

吉川実

松尾直嗣

斎藤浩

同(昭和五八年(行ウ)第五〇号事件につき復代理人)

大川一夫

阪口徳雄

桂充弘

被告

桝居孝

中川淑

被告(昭和五八年(行ウ)第五〇号事件のみ)

阿部和雄

被告

岡崎義彦

被告(昭和五九年(行ウ)第七号事件のみ)

岸昌

被告ら訴訟代理人弁護士

辻中一二三

辻中栄世

森薫生

主文

本件訴えをいずれも却下する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  原告ら

(一)  昭和五八年(行ウ)第五〇号事件

被告桝居、同中川、同阿部、同岡崎は大阪府に対し各自二四八七万円及びこれに対する昭和五八年六月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え、訴訟費用は同被告らの負担とする、との判決

(二)  昭和五九年(行ウ)第七号事件

被告桝居、同中川、同岡崎、同岸は大阪府に対し各自一二八万八〇二三円及びこれに対する訴状送達日の翌日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え、訴訟費用は同被告らの負担とする、との判決並びに仮執行の宣言

2  被告ら

本案前として、主文同旨の判決

本案につき、原告らの請求をいずれも棄却する、訴訟費用は原告らの負担とする、との判決

二  原告らの請求原因

1  原告らはいずれも大阪府の住民であり、昭和五六年四月一日から昭和五七年三月三一日までの間、被告桝居は大阪府水道企業管理者、被告中川は大阪府水道部長、被告阿部は同部次長、被告岡崎は同部総務課長の職にあつた者、被告岸は当時大阪府知事の職にあつた者である。

2  被告桝居、同中川、同阿部、同岡崎は、昭和五六年度大阪府営水道事業会計にかかる第七次拡張事業費の工事諸費の中から、会議費二四八七万円を支出した(以下「本件(一)の支出」という。)、しかし、右金員は右被告らが自らや部下が費消するため、又は第三者が費消することを右被告らにおいて了承の上で支出されたものであつて、すべて本来の使途を秘匿し、架空名義による接待費用等として処理されており、明らかに違法又は不当な支出である。

ちなみに、右架空接待の一部を例示すると別表(一)記載のとおりであり、合計一三四万〇〇九〇円が他の公共団体の水道事業関係職員の氏名を藉りて、実際にはその事実がないのにこれらの者を右被告らが接待したものとして支出されている。

3  また被告桝居、同中川、同岡崎、同岸は、同年度大阪府営水道事業会計の中から、別表(二)記載のとおり合計一二八万八〇二三円を支出したが(以下「本件(二)の支出」という。)、右金員も右被告らが自らや部下が費消するため、又は第三者が費消することを右被告らにおいて了承の上で支出されたものであり、前同様架空名義による接待費用等として処理された違法又は不当な支出である。

4  大阪府は、本件(一)の支出により二四八七万円の損害を本件(二)の支出により一二八万八〇二三円の損害をそれぞれ被つた。

5  原告らは、本件(一)の支出について、昭和五八年四月二八日大阪府監査委員に対し、水道部幹部に前記一三四万〇〇九〇円を返還させ、かつ前記二四八七万円の使途の明細を明らかにして違法不当な公金支出を是正するに必要な措置を講ずることを求める住民監査請求をしたが、右監査委員は同年五月一六日右請求を地方自治法(以下「法」という。)二四二条二項本文の一年の期間徒過による不適法なものとして却下した。

また原告らは、本件(二)の支出についても、同年一一月一六日右監査委員に対し、水道部幹部と被告岸に前記一二八万八〇二三円を返還させることを求める住民監査請求をしたが、右監査委員は同年一二月二三日右請求を同様の理由により不適法なものとして却下した。

しかしながら、原告ら住民には公金支出手続についての関係書類の閲覧が認められておらず、本件(一)、(二)の支出に関する決算書類にも支出先等の具体的内容は一切明らかにされていない上、被告らは前記のように支出関係書類に虚偽の事実を記載して真実を隠蔽してきたものであり、原告らにおいて本件支出が違法であるか否かを調査することはおよそ不可能であつたから、右期間徒過については法二四二条二項ただし書の正当な理由が存する。

6  よつて、原告らは、法二四二条の二第一項四号に基づき大阪府に代位して、(一) 被告桝居、同中川、同阿部、同岡崎に対し、各自損害金二四八七万円とこれに対する本件(一)の支出後である昭和五八年六月一〇日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を、(二) 被告桝居、同中川、同岡崎、同岸に対し、各自損害金一二八万八〇二三円とこれに対する昭和五九年(行ウ)第七号事件の訴状送達日の翌日から支払ずみまで右同様の割合による遅延損害金をそれぞれ大阪府に支払うことを求める。

三  被告らの本案前の主張

1  本件(一)の支出は、大阪府水道部が所管する昭和五六年度水道事業会計の(款)水道事業資本的支出、(項)建設改良費、(目)第七次拡張事業費、(節)工事費、(附記)工事諸費として支出されたものであるが、そのうち別表(一)記載の合計一三四万〇〇九〇円は、同表記載の各店舗に対し同表記載の各金額が昭和五六年一二月二八日に支出され、残額二三五二万九九一〇円も、遅くとも右会計年度末である昭和五七年三月三一日までに支出ずみである。

また本件(二)の支出のうち別表(二)記載の番号1、2は、右同(目)第七次拡張事業費、(節)工事費、(附記)工事諸費として、番号3ないし10は、右同(目)第七次拡張事業費、(節)工事費、(附記)会議費として、同表記載の各店舗に対し同表記載の各金額(ただし、番号3は九万八一四四円、番号6は一九万九九二〇円)が昭和五六年一二月二八日に支出されたものである。

2  本件(一)の支出についての監査請求は右支出から一年経過後の昭和五八年四月二八日に、本件(二)の支出についての監査請求も右支出から一年経過後の同年一一月一六日になされたものであるから、いずれも不適法であり、なお、本件(一)の支出の是正措置を講ずることを求める監査請求は個別的、具体的な事実の摘示を欠く点においても不適法である。

しかして、被告らは本件(一)、(二)の支出そのものを隠蔽したことはないから、原告らが監査請求期間を徒過したことにつき正当な理由は存しない。また本件(一)の支出に関し、昭和五七年一一月一八日及び同月二四日開催の大阪府議会決算特別委員会において架空接待の疑いありとの質疑がされ、水道部当局者が答弁しているが、同月一九日及び同月二五日付の読売、朝日、毎日の各新聞は右委員会の模様を大々的に報道しており、右新聞報道があつたことに照らしても原告らには正当な理由はないというべきである。

大阪府監査委員会は本件監査請求をいずれも不適法として却下したのであり、本件訴えはいずれも監査請求を経ていないことになるから、監査請求を前置しない不適法な訴えである。

3  被告岸は本件につき被告適格を欠く。大阪府水道部は地方公営企業法に基づき、大阪府が経営する水道事業等の業務の執行に関し、水道企業管理者の権限に属する事務を処理するために設けられた組織であるから、同水道部の公金支出行為は水道企業管理者の権限に属する業務の執行にほかならず、普通地方公共団体の長である大阪府知事の権限外である。従つて、被告岸は本件については法二四二条の二第一項四号にいう職員に該当せず、同被告に対する訴えは不適法である。

4  本件(二)の支出のうち、別表(二)記載の番号1、2(計一〇万一七六五円)は本件(一)の支出の一部であるから、請求の趣旨(二)のうち右金額にかかる請求は、被告桝居、同中川、同岡崎については二重起訴の関係にあり、不適法である。

四  本案前の主張に対する原告らの認否及び反論

1  本案前の主張1の事実は、本件(二)の支出の具体的な支出科目を除いて認める。もつとも、別表(一)、(二)記載の支出先はいずれも形式上のものであり、真実の支出先でないことは前記のとおりである。

2  同2の事実中、本件監査請求の日時、本件(一)の支出に関し大阪府議会決算特別委員会で質疑応答があり、その模様が三大新聞に報道されたことは認めるが、その余は争う。

3  同3、4の事実は争う。

4  監査請求期間を徒過したことについての正当な理由の有無は、個々の住民が新聞報道によつて当該事実を知つていたか否かという個別的な事情によつてでなく、監査請求の対象となる違法行為がどれ程正義に反する方法でなされていたかという違法行為をした者の側の事情や行為態様とその推移から、客観的、画一的に判断されるべきである。本件においては、本件(一)、(二)の支出の前提となる支出関係書類に記載されているような接待の事実がないのに、あつたかのように偽装して他の用途に充てるため公金が支出されたのであり、その後も依然真の使途は秘匿されたままであるから、著しく正義に反する違法行為が行われたというべく、原告らには正当な理由がある。

なお、原告らは本件(一)の支出につき疑惑がある旨の新聞報道によつても、大阪府水道部当局者が決算特別委員会で右支出が適法である旨答弁し、事実解明を避ける態度に終始していたことから、昭和五八年四月の大阪府知事選挙に際し右支出に問題があると認識し、同委員会で質疑を行つた府会議員に面接したり、会議録を取寄せる等して調査をした結果、右支出が違法不当であることの確信を得たので、直ちに右支出につき監査請求をしたものであり、本件(二)の支出についても、同年秋に判明した新たな事実に基づき同様の問題を認識して、直ちに監査請求をするに至つたものである。

五  請求原因に対する被告らの認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2、3の事実中、本件(一)、(二)の支出状況については前記本案前の主張1に記載のとおりであるが、その余は否認する。

3  同4の事実は否認する。

六  証拠〈省略〉

理由

一被告の本案前の主張について判断する。

大阪府水道部所管にかかる昭和五六年度水道事業会計の(款)水道事業資本的支出、(項)建設改良費、(目)第七次拡張事業費、(節)工事費、(附記)工事諸費として二四八七万円が支出されたこと(本件(一)の支出)、そのうち別表(一)記載の合計一三四万〇〇九〇円については、同表記載の各店舗に対し同表記載の各金額が同年一二月二八日に、残額二三五二万九九一〇円についても、遅くとも右会計年度末の昭和五七年三月三一日までに支出されていること、右同水道事業会計の中から別表(二)記載の合計一二八万八〇二三円のうち少なくとも合計一二八万七一六七円につき、同表記載の各店舗に対し同表記載の各金額(ただし、番号3については九万八一四四円)が昭和五六年一二月二八日に支出されたこと(本件(二)の支出)、原告らが大阪府監査委員に対し、本件(一)の支出につき昭和五八年四月二八日にした監査請求、本件(二)の支出につき同年一一月一六日にした監査請求がいずれも法二四二条二項本文に定める一年の期間を徒過した不適法なものとして却下されたことは、当事者間に争いがない。

しかして、弁論の全趣旨によれば、本件(二)の支出のうち別表(二)記載の番号1、2の計一〇万一七六五円は本件(一)の支出と同じ科目の(附記)工事諸費の中から、その余の少なくとも計一一八万五四〇〇円も右(附記)工事諸費のうちの会議費として支出されたことが窺われるところ、これによれば、請求の趣旨(二)(昭和五九年(行ウ)第七号)のうち右合計一二八万七一六七円の請求は、請求の趣旨(一)(昭和五八年(行ウ)第五〇号)の請求にかかる二四八七万円中に含まれていることになり、被告桝居、同中川、同岡崎との関係では二重起訴となる疑いがあるが、この点は暫くおき、本件全体に共通する監査請求期間徒過につき原告らに法二四二条二項ただし書にいう正当な理由が存するか否かにつき検討することとする。

二前記事実に、〈証拠〉を総合すると、次の事実が認められる。

1  大阪府水道部は、地方公営企業法に基づき大阪府が設置、経営する水道事業及び工業用水道事業に関し、水道企業管理者の権限に属する事務を処理するために設けられた内部組織であるところ、本件会計年度当時同部の事業遂行上必要な関係諸機関等との会議に要する経費は、一般の営業費用である総経費中の会議費、第七次拡張事業費の事務費中の会議費のほかに、第七次拡張事業費の工事費中の工事諸費ないしそのうちの会議費から支出できることになつており、特に右工事諸費は第七次拡張事業の進行に附随して必要となる地元折衝や関係先との調整等にあてるための費用として認められたもので、二四八七万余円の多額に達していた。

2  同水道部が右会議に要する経費を支弁する際は、総務課長の統轄のもと、当該会議の主管課長において会議開催に先立ち、会議の目的、日時場所、出席者名、債権者名(支出先)、経費支出予定額等を記載した経費支出伺を作成して、所定の決裁を受けることになつており、その支出手続は、同部会計規程に従い、会議開催後債権者からの請求に基づき会議の主管課長において事実の確認を行つた上、所定の決裁を受け、支出伝票に経費支出伺、債権者の請求書を添付して総務課長経由で金銭出納員に送付し、金銭出納員がこれを審査し、支出決定をして小切手を振出すこととされていた。

しかしながら、本件(一)の支出のうち別表(一)の支出や本件(二)の支出については、支出伝票発行に際し請求書と経費支出伺との形式的な照合が行われたに過ぎず、会議が経費支出伺の記載どおり現実に行われたか否かの確認がされていなかつたことから、経費支出伺の記載内容(別表(一)、(二)記載の日時場所、出席者名が記載されていたものと推測される。)自体にも疑惑を生じさせるものがあつた。

3  しかるところ、何らかの経路で別表(一)記載の支出につき経費支出伺の記載内容を知るに至つた一府会議員が昭和五七年一一月一八日及び同月二四日に開催された大阪府議会決算特別委員会において右疑惑を取上げて質疑を行い、各会議に出席したとされている他の公共団体職員中には現実に出席していない者がいる事実を指摘し、右支出が架空名義接待による違法支出であり、ひいては第七次拡張事業費の工事費中、工事諸費ないしそのうちの会議費から支出された総額二四八七万余円の使途も不明確であるとして、水道部当局者を追及した。

これに対し当局側は、別表(一)記載の日時場所での会議につき債権者に同表記載の金額を支払つたことは認めたが、出席者の氏名は事柄の性質上答弁を差控えたいとして明らかにせず(暗に架空接待の事実を認めたものと解される。)、右二四八七万余円は第七次拡張事業にかかる工事の執行に必要な地元折衝あるいは関係先との調整のための会議開催にあてたものであるとの抽象的な答弁を繰返すに止まつた。

4  右決算委員会の模様は、同月一九日及び二五日付の読売、朝日、毎日の各新聞に「水道部カラ接待」、「府水道部がぶ飲み」、「多過すぎる会議接待費」(以上一九日付)、「架空接待相次ぎ八件」「工事費名目で飲み食い」、「水道部のカラ出張(接待の誤記)追及」(以上二五日付)等の見出しをつけて大々的に報道された。右記事の中には、会議に出席したとされている他の公共団体職員の一人が接待を受けたことを否定している談話や、水道企業管理者の会議費の使途は公表できないが今後はできるだけ節減に努め、批判を招かないようにしたいとの談話も掲載されている。

5  原告らはいずれも、市民の立場に立つて政治、行政を監視し、不正、不当な政治、行政を是正することを目的として、近畿各地に居住する趣旨賛同者により昭和五五年一二月に設立された「市民オンブズマン」の会員であるが、同会は昭和五八年四月の大阪府知事選挙に際し、活動の一環として本件(一)の支出問題を取り上げることとし、水道部職員や大阪府会議員等との接触によつて、別表(一)の会議に出席したとされる者の名簿や前記決算特別委員会の速記録の手書き原稿等を入手し、事案の内容を検討した結果、大阪府下に居住する原告らが弁護士一名と共に同月二八日本件(一)の支出につき監査請求をした。なお、監査請求書に添付すべき事実を証する書面としては、右名簿や速記録原稿の提供者が公表を望まなかつたために添付せず、前記新聞記事のうち主要なもの三つのコピーを添付するに止めた。

6  次いで同年一〇月六日に開催された大阪府議会本会議で一府会議員が新たな資料に基づき、本件(二)の支出につき前同様架空接待の疑いがあるとの質疑をしたが、水道部当局者は会議接待費は機密的な要素を含んでおり、内容の公開は差控えたい旨答弁した。この模様は翌七日付の読売新聞に「架空接待また発覚、大阪府水道部が一二八万円」との見出しで報道された。

そこで、原告らは何らかの経路で右支出にかかる会議に出席したとされる者の名簿を入手し、前同様の動機から同年一一月六日右支出についても監査請求をしたが、監査請求書には右新聞記事のみを事実を証する書面として添付した。

三ところで、法二四二条二項本文が、住民監査請求は当該行為のあつた日又は終つた日から一年を経過したときは、これをすることができないと定めているのは、監査請求の対象となる行為の法的効果を早期に確定させることにより、地方公共団体の行財政運営の安定を図ろうとする趣旨に出たものと解される(右期間の始期が客観的に定められており、請求者の知、不知を問わないこととしているのもそのためである。)。そして、同項ただし書において、正当な理由があるときはこの限りでないとして、右期間制限の排除を定めているのは、交通途絶等による客観的障害が存する場合のほか、当該行為の種類、性質、態様、行為後の事情その他諸般の事情により、注意深い住民が相当の方法により調査しても当該行為の存在を知ることができなかつたために、住民監査請求を認めなければ著しく正義に反することとなる場合には、地方財務会計についての民主的コントロールを十全ならしめるべく、法的安定性を犠牲にしても期間経過後の監査請求を許容しようとする趣旨であると解され、従つて正当な理由があるときとは、右に述べたような例外的な場合に限られるというべきである。

本件についてこれを見るに、前記認定のとおり、本件(一)の支出に関し大阪府議会決算特別委員会でなされた質疑応答に基づき、右支出のうち別表(一)記載の合計一三四万〇〇九〇円の支出については架空接待の疑いがあることが大々的に新聞報道されたのであるから、地方財政につき多少とも関心のある注意深い住民にとつては、右新聞記事によつて架空接待にかかる右支出の適法性につき疑問を抱くのは勿論のこと、偶々判明した氷山の一角に過ぎない右一三四万〇〇九〇円だけでなく更には工事諸費の総額二四八七万円の支出についてもその使途に問題があることを容易に認識することができたものと判断される。従つて、「市民オンブズマン」なる民間の行政監視組織の会員である原告らとしては、右新聞報道があつた昭和五七年一一月下旬以後、監査請求期間が経過するまでの任意の時期に、右新聞記事を事実を証する書面として添付の上、本件(一)の支出につき監査請求手続をとることが可能であつたものであり、その他前記例外的な場合に当る事情は本件全証拠によつても窺えないから、結局原告らには本件(一)の支出についての監査請求の期間徒過につき正当な理由は存しないというべきである。なお、原告らが新聞報道のみでは本件(一)の支出の違法不当性を立証できないと判断したとしても、かかる主観的事情によつて正当な理由ありとすることができないことは前記説示からして明らかである。

また、本件(二)の支出については、これに関する府議会本会議での質疑応答と新聞報道がなされたのは監査請求期間の経過後のことであり、新聞記事には右支出の支出科目まで明記されなかつたが、原告らが把握した支出の内容は別表(二)記載のとおりであつて、本件(一)の支出のうち別表(一)記載の支出と全く同じ態様のものであるから、水道部所管の第七次拡張事業費に関連して架空接待の疑いがある支出として、本件(一)の支出に包含され、その一部をなす別表(一)記載の支出のいわば追加分に相当することが自ら明らかである。従つて、既に本件(一)の支出につき監査請求をしていた原告らにつき前記のとおり右監査請求期間の徒過に正当な理由がない以上、本件(二)の支出についての監査請求も、右期間徒過に正当な理由がないというべきである。

四以上によれば、本件訴えはいずれも適法な監査請求を経ていないことになるから、不適法なものとしてこれを却下し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官青木敏行 裁判官古賀 寛 裁判官松田 亨)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例